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ステロイドの正しい知識
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【ステロイドバッシング】
1992年7月「ニュース○テーション」で久米○氏が、ステロイドの副作用に関する特集の最後に、「ステロイドは最後の最後ぎりぎりまで使ってはいけない薬」とコメントしたことから端を発し、その後、数々のマスコミがステロイドバッシングを行ったことで、医者に不信感を持った「ステロイド恐怖症」のアトピー患者が急増しました。
このような報道が生じたのは、そもそも、ステロイド外用薬には副作用があるため、患部の箇所に応じて薬剤の強さと塗る期間をきちんと患者に説明することが必要であったにもかかわらず、それをせずに処方していた医者があまりにも多く、長期間ステロイドを大量に使い続けたことにより副作用に苦しむ患者が急増したことが原因のひとつだったのです。
その後、やはりマスコミが「脱ステロイド」治療法を大々的に取り上げたため、「脱ステロイド」を謳う医者や民間療法などが、雨後の筍のように急激に増えていきました。これらの療法のなかには、治療効果がないにもかかわらず高額の機器や健康食品などを購入させるいわゆる悪徳商法も数多く存在していたため、急にステロイド外用薬の使用をやめることによって「リバウンド現象」に苦しむ患者が増加していきました。
この状況を見かねた日本皮膚科学会が、ステロイドバッシングが始まってから10年近くたった2000年5月にやっと重い腰を上げ、「ステロイドの適正な使用が正しいアトピーの治療法であることを患者に説明し、ステロイドに対する混乱を沈める目的」で「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」を発表し、皮膚科医の啓蒙活動を行い始めました。
結局、医者とマスコミと悪質な民間療法にによって、アトピー患者が翻弄された10年間だったのです。
今後、私たちは自分たちの体を守るためにも、ステロイドに関して氾濫した情報に踊らされることなく、自分自身で知識を身に付け、何が本当に正しいのかを冷静に判断する必要があるのです。
【ステロイド外用薬の薬効】
ステロイドとは副腎皮質ホルモンのことで、もともと副腎で作られるものです。
副腎には髄質と皮質が存在します。髄質はストレスや怒りを感じると、アドレナリンを放出し、血圧を上げたり、血管を収縮させる機能を持ちます。それに対し、皮質はグルココルチコイドというホルモンを放出するのですが、このグルココルチコイドが強力な「抗炎症作用」と「免疫抑制作用」を持つのです。
このグルココルチコイドを人工的に合成し、効果を何十倍にも強くしたものがステロイド外用薬なのです。ステロイド外用薬は分子のサイズが小さく脂溶性のため、皮膚から急速に浸透するため、即効性も高いのです。
ステロイド外用薬は、細胞に直接作用して細胞のエネルギー代謝を変化させることにより炎症を抑える「抗炎症作用」と、アレルギーを引き起こすT細胞の働きを抑えるとともに、炎症の原因となるヒスタミンを放出するマスト細胞の働きも抑えることにより、炎症の原因を根本から断ってしまう「免疫抑制作用」の2つの働きで、アトピー性皮膚炎の症状を強力に抑えるのです。
【ステロイド外用薬の副作用】
このような強い薬効性を持つステロイド外用薬ですが、その強さゆえに様々な副作用を発生させてしまうのです。ステロイド外用薬の副作用は大きく局所性副作用と全身性副作用の2つに分けられます。
局所性副作用には皮膚萎縮、毛細血管の拡張、多毛、細菌やウィルスによる感染があげられます。
もっとも初期に現れる局所性副作用は、皮膚萎縮や毛細血管の拡張です。皮膚萎縮はステロイドが表皮の増殖と再生を抑制することで皮膚が薄くなり、静脈が枝状に浮き上がるようになります。
毛細血管の拡張により、わずかな温度変化によってもすぐに顔が赤くなったりします。そして一度生じた毛細血管の拡張は正常に戻るまで1年以上かかり、場合によっては、戻らない場合もあります。
また、ステロイドによる多毛に関しては、小児に特に現れる副作用ですが、ステロイド外用を中止することで、次第に回復します。
さらに、ステロイドを外用した患部の免疫力が抑制されるため、白癬菌やカンジダ、黄色ブドウ球菌、溶連菌などに感染し、合併症を起こすことがあります。
一方全身性副作用に関してですが、ステロイド外用薬を使用することにより、副腎皮質の機能が抑制されることがあげられます。大量に強いステロイド外用薬を使用しても、それが短期間であれば、副腎皮質機能は回復しますが、長期にわたって使い続けることにより、副腎皮質機能が元に戻らなくなり、使用の中止によって、以前よりもひどい炎症を起こしてしまうのです。
そのほかに、目の周りにステロイド外用薬やステロイド点眼薬を長期で使用することにより、眼球のレンズが不透明になり、緑内障や白内障を誘発することも知られています。
ステロイド外用薬は、皮膚の炎症のひどいときに必要十分な量を短期で使用し、炎症が治まった時点で徐々に使用頻度を少なくした後に中止することにより、副作用を極力起こさないようにすることが重要です。副作用が怖いからといって、一回に塗る量を減らすと、十分な抗炎症効果が得られず、だらだらと使い続けることで、かえって重大な副作用を招いてしまうということを忘れないことが大切です。
【リバウンド現象】
リバウンド現象については、マスコミや民間療法などによる様々な情報が氾濫しているため、本当の定義が何なのかわからなくなっている方も多いのではないでしょうか。
よく聞かれるのは、「脱ステロイド療法」によって、ステロイドの使用を急に中止することで、顔がパンパンに腫れ上がり浸出液で服やシーツがベトベトになってしまう状態を「好転反応」と呼んだり、「ステロイドの毒を体から追い出している状態」というものです。
また、「ステロイド外用薬では副作用は全く起きず、リバウンドは単にステロイド使用を中止したために、症状が悪化しただけである」という医者もいます。
しかし、これらはどちらも極端であり、正しい認識ではありません。
そもそもリバウンド現象と呼ばれる症状は、ステロイドの副作用が最大の原因となって起こるものなのです。先に説明したステロイドの副作用の中に、「副腎機能の抑制」と「免疫機能の抑制」がありましたが、主にこの2つの副作用によって、リバウンド現象が起きるのです。
ステロイドを長期間使い続けることで、体外から強力なステロイド(副腎皮質ホルモン)を与えてしまうため、元々副腎で生成されていたステロイドの量が以前よりも減少します。この状態で急に「脱ステロイド」を行うと、「増悪因子」が取り除かれていないにもかかわらず炎症を抑えるものが全くなくなるため、一気にひどい炎症を再発し、患部が腫れ上がって血液内の液体部分である血漿(浸出液)が染み出てきます。
さらに、患部の免疫力が低下しているため、黄色ブドウ球菌や、ヘルペスウィルス、白癬菌などが繁殖し、合併症を起こしたりもします。
決して「毒を追い出している」のではく「血液の一部が染み出ている」のであり、決して「好転」しているのではなく細菌などに「感染」している「危険」な状態なのです。
これがリバウンド現象の真実です。
【ステロイド外用薬の種類】
ステロイド外用薬には、下の表のとおり、その薬効の強さによってStrongest(最も強い)からWeak(かなり弱い)まで5種類に分類されます。
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強さ |
薬品名 |
商品名 |
T群
Strongest
(最も強い) |
プロピオン酸クロベタゾール |
デルモベート |
酢酸ジフロラゾン |
ジフラール |
ダイアコート |
U群
very-strong
(非常に強い) |
プロピオン酸デキサメタゾン |
メサデルム |
吉草酸ジフルコルトロン |
ネリゾナ |
フルオシノニド |
トプシム |
シマロン |
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン |
パンデル |
ジフルプレドナート |
マイザー |
ジプロピオン酸ベタメタゾン |
リンデロン-DP |
アムシノニド |
ビスターム |
ハルシノニド |
アドコルチン |
ブデソニド |
ブデソン |
フランカルボン酸モメタゾン |
フルメタ |
酪酸プロピオン酸ベタメタゾン |
アンテベート |
サレックス |
V群
strong
(強い) |
吉草酸ベタメタゾン |
リンデロン-V ※1 |
リンデロン-VG ※1 |
コルデールG ※1 |
トクダーム |
吉草酸デキサメタゾン |
ザルックス |
ボアラ |
吉草酸酢酸プレドニゾロン |
リドメックスコーワ |
プロピオン酸デプロドン |
エクラー |
プロピオン酸ベクロメタゾン |
プロパデルム |
フルオシノロンアセトニド |
フルコート |
フルコートF ※1 |
W群
medium
(弱い) |
酪酸ヒドロコルチゾン |
ロコイド |
プランコール |
酪酸クロベタゾン |
キンダベート |
デキサメタゾン |
グリメサゾン ※2 |
ビバル酸フルメタゾン |
ロコルテン |
プロピオン酸アルクロメタゾン |
アルメタ |
トリアムシノロンアセトニド |
ケナコルトA |
レダコート |
X群
weak
(かなり弱い) |
酢酸デキサメタゾン |
デクタン |
酢酸メチルプレドニゾロン |
ヴェリダーム・メドロールアセテート |
ヴェリダーム・ネオ・メドロールアセテート ※1 |
酢酸ヒドロコルチゾン |
コルテス |
テラ・コートリル ※1 |
メチルプレドニゾロン |
ネオ・メドロールEE ※1 |
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※1 抗生物質配合 |
※2 効ヒスタミン剤配合 |
ステロイド外用薬の種類
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そもそも、これだけの種類が存在するのは、ステロイド外用薬に副作用があるため、患部の炎症のひどい箇所には強いものを、炎症が軽い箇所、ないしはステロイドの経皮吸収の高い箇所には弱いものを適切に使い分け、副作用の影響を最小限に抑えつつ、治療の効果を最大限に高めるためなのです。
たとえば、ステロイド外用薬の吸収率は、症状が出やすいひじの裏側を1とすると、首は6倍、顔に至っては13倍も高いのです。
そのため、腕と顔に症状があれば、おのずと使用するステロイドの種類も異なりますし、また、大人よりも幼児の方がステロイド外用薬の吸収率が高いため、それらもステロイド外用薬をの種類を選択する際に考慮する必要があるのです。
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部位 |
吸収度 |
前腕(裏側) |
1 |
陰嚢 |
42倍 |
顔 |
13倍 |
首 |
6倍 |
わきの下 |
3.6倍 |
頭皮 |
3.5倍 |
背中 |
1.7倍 |
前腕(外側) |
1.1倍 |
手のひら |
0.83倍 |
足首 |
0.42倍 |
足の裏 |
0.14倍 |
ステロイド外用薬の体の部位による吸収力の違い
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しかし、すべてとはいいませんが、多くの医師はこれらの説明を患者にすることなく、一方的にステロイド外用薬の種類を決定し処方することが多いことは確かです。
また、薬局に行けば「強い」クラスのステロイド外用薬を、何の規制もなく購入することができるのです。
そのため、正しい使用方法の説明を受けていない患者が、強いステロイド外用薬を顔に長期間塗り続けて、副作用をを起こすことや、逆に副作用が怖いため、治療に十分なステロイドの量を塗らなかったり、また、塗ったり、塗らなかったりを繰り返すことことで、結果として症状が改善せず、副作用が出るほど長期間だらだらと使用してしまうという問題が生じるのです。
【ステロイド外用薬の選択と正しい使用方法】
「日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」によると、皮疹の重症度に応じて以下の表のようにステロイド外用薬の選択基準が決められています。
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皮疹の重症度 |
外用薬の選択 |
重症 |
高度の腫脹/ 浮腫/ 浸潤ないし苔癬化を伴う紅斑,丘疹の多発,高度の鱗屑,痂皮の付着,小水疱,びらん,多数の掻破痕,痒疹結節などを主体とする. |
必要かつ十分な効果のあるベリーストロングないしストロングクラスのステロイド外用薬を第一選択とする.痒疹結節でベリーストロングクラスでも十分な効果が得られない場合は,その部位に限定してストロンゲストクラスの使用もある. |
中等症 |
中等症までの紅斑,鱗屑,少数の丘疹,掻破痕などを主体とする. |
ストロングないしミディアムクラスのステロイド外用薬を第一選択とする. |
軽症 |
乾燥および軽度の紅斑,鱗屑などを主体とする. |
ミディアム以下のステロイド外用薬を第一選択とする. |
軽微 |
炎症症状に乏しい乾燥症状主体 |
ステロイドを含まない外用薬を選択する. |
皮疹の重症度と外用薬の選択
(出典:日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎治療ガイドライン)
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医師向けのガイドラインのため、難しい用語が並んでいてわかりにくいですが、要約すると、次のようになります。
- 重症
ひどい腫れやむくみ、カサカサ、皮膚が厚くなった状態、多数のブツブツ、また、かさぶたができたり水ぶくれや、ジュクジュクした状態の場合は、「非常に強い」ないしは「強い」ステロイド外用薬を使う。それでも効果がない場合は、塗る箇所を限定して「最も強い」ものを使用する。
- 中等症
中程度の赤い斑点やカサカサ、ブツブツが少しあり、引っかき傷があるような状態の場合は、「強い」ないし「弱い」ステロイド外用薬を使用する。
- 軽症
軽い赤みやカサカサ、乾燥状態の場合は「弱い」「かなり弱い」ステロイド外用薬を使用する。
- 軽微
乾燥しているが、炎症がない場合は、ステロイド外用薬は使用しない。
また、ガイドラインでは、例外として以下のものをあげています。
- 幼児に対してステロイド外用薬を使用する場合、上の選択基準よりひとつ弱いものを使用する。
- 顔面はステロイド外用薬の吸収率が高いので、原則として「弱い」以下のものを使用する。また、連続使用する場合は1週間を限度とし、それ以上使用する場合は、間欠的に使用し、その後使用を中止したら、ある程度期間が経つまでは再使用しない。
- 顔面や首、ステロイドの副作用が起きている箇所にはステロイドよりも薬効が高く副作用の少ない「免疫抑制剤」のタクロリムス外用剤(製品名:プロトピック)を積極的に使うが、16歳以下の子供や妊婦に対する安全性が確立されていないので、それらの対象者には使用しないことと、使用する場合は2週間を限度とする。
ステロイド外用薬の使用期間に関しては、「1日の使用量を5〜10グラムとして、3ヶ月間までなら、一時的な副腎機能の抑制による副作用が起きても、使用をやめれば副腎機能が元に戻る」としていますが「2週間程度の使用であれば、副腎機能は一過性でしかも中止後速やかに回復する」という別の報告もあるため、安全考えると連続使用は2週間程度にして、その後徐々に使用の間隔を開けて行き、保湿剤に切り替えていくのがよいと思います。
なお、保湿剤は抗炎症成分の配合されたものを選び、細菌感染を防ぐために、殺菌作用があり皮膚に刺激のない殺菌成分などを自分で混合して使用することで、リバウンドを最小限に抑えることができます。
いずれにせよ、ステロイドは副作用があるため極力使用しないことをおすすめしますが、すでに長期間使用している場合は、急に脱ステロイドをすることは合併症の危険性がありますので、上記のように、徐々に中止するようにしてください。
【まとめ】
ステロイド外用薬は、そもそもアトピー性皮膚炎を完治させるための薬ではなく、炎症がひどく保湿剤では症状をコントロールできない場合に、期間を限定して炎症を鎮めるために使用するための薬です。
そして、ご存知の通り、様々な副作用があるため、正しい知識を持たずしてむやみに使用することは確かに危険といわざるをえません。
しかし、塗る箇所や症状の度合い、また、顔や腕などによる吸収力の違い、そして、使用期間の限度や使用を中止する際の方法などを考慮して正しく使用すれば、副作用を発生させることなしに使用することも可能なのです。
今日、マスコミや民間療法によって作られたステロイドに関する様々情報が氾濫するなか、患者の不安と混乱をなくすため、ステロイドに関する正確な知識は、医者が患者にきちんと説明すべきなのですが、そのような医者が数少ないことも事実です。
それらの状況から自分自身の身を守るためにも、私たちは、ステロイド外用薬の薬効や副作用などの知識を自ら持って、その上でステロイドを使用するかしないか、また、使用するならば、いつどのように使用するかを冷静に判断していく必要があるのです。
そして、最終的にはステロイドを使用しないでも症状をコントロールできる技術を自分で身につけることが最善の治療法なのです。 |
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